小さな町にて 随筆コレクション 2 著者 野呂邦暢 節約 解説 岡崎武志

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「過去から現在へ一方向に流れる時間ではなく、それは現在から過去へと遡及する時間でもあった。二つの流れが音もなくせめぎあい、私のまわりで溶けあって、幅と厚みを増したように思われた。空の高みからヒバリのさえずりが聞えた。菜の花の黄も目にしみた。私は過去に生き、同時に現在をも生きていた」(「倭国紀行」)1980年5月7日。野呂邦暢は42歳の若さで急逝する。「丘の火」「落城記」「愛についてのデッサン」をはじめとする数々の小説を世に出しながら、戦記蒐集と執筆、古代史研究など、多岐にわたる活動に取り組んでいた最中の突然の死であった。〈随筆コレクション〉(全2巻)の第2巻にあたる本書は、早すぎる晩年1978-80年に発表された小説以外の文章、及び1965-80年発表の書評を集成、248編(うち単行本未収録作品175編)を収録する。野呂の随筆のなかでも珠玉といわれる、連載「小さな町にて」(週刊読書人、全60回)、今回が初の単行本収録となる美術エッセイ「絵とおしゃべり」(山下画廊、全28回)など、強靭で繊細な眼差しが伝わる名随筆。そして心を離れることのなかった、戦争の惨禍と無名兵士たちの苦悩、故郷・諫早をつつむ豊かな自然について……作家の思いが込められた文章から、我々はこれからも多くの示唆をうけとるだろう。岡崎武志解説、浅尾節子解題。

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